「その格好どうしたの!?」
朝早く。
教会の側にある宿舎の前。早朝の散歩をしていたサリナは入口に入ろうとする影を呼び止める。
「......ああ、お早う」
声をかけられ、振り向いた影は声の主がサリナであると確認するとバツが悪そうに顔を背け、中に入ろうとした。
「お早う、じゃないよ。その格好どうしたの!?」
「少し派手に転んだだけだ」
影-璃緒-の衣服はあちこち破れ、酷く汚れていた。
璃緒は一言だけ返して宿舎に入ろうとしたが、サリナに腕を掴まれる。
「ヒールもかけないで」
「そんな体力が今ないだけだ。寝れば治る」
「そういう問題じゃないでしょ?」
サリナはそのまま璃緒の手をひき彼の部屋に入る。
「そこに座ってて」
部屋の引き出しを開け、救急用具を探す。
「おい......」
男の部屋にずかずか一人で乗り込むとかねえだろ......と言おうとした額に布があてられる。
「いだだ......おま、なにすんだ」
「何って、消毒でしょ?男の子なら我慢しなさい」
「我慢以前にそんな力任せにするもんじゃないだろ......」
という暇も与えられずあちこちを消毒される。消毒液が傷に染みる痛みに悲鳴を上げそうになるが、彼女の手前そんなみっともない真似などできない。暫し、拷問じみた消毒を経て、痛めた腕に包帯が巻かれ始める。
「......で、昨日はどこで暴れてきたの?」
「......狩場」
「嘘」
「なんでそんなこと言い切れるんだよ?」
「顔に書いてる」
「......」
そう言われては返す言葉もない。
「あいつらだって悪いんだぜ? 人の顔見るなり目つき悪いとか」
言い訳を返すが、じっとサリナに見つめられ、言葉に詰まる。
「多分、やめろといっても無理なんだと思うけど......」
「......」
部屋にあるのはサリナの静かな話し声と、布が擦れる音だけ。
普段なら誰かが触るだけで針で刺すような不快感を感じるのだが、何故だろう?
今だけは添えられている手からは温かい感触しか感じない。そんなことをぼんやり璃緒は考える。
「はい、おしまい」
「......」
手当てを終えたサリナがふと顔を上げると、璃緒は胡坐をかいた姿勢のまま、こくり、こくりと居眠りをしていた。
「ちゃんと寝ないと風邪をひくよ?」
「ん......」
起きているのか寝ているのかわからない返事をし、璃緒はそのまま前にもたれかかる。
「ちょっと......」
と、どかそうとしたが手を止める。
「5分だけ......ね」
普段触ることも拒絶する空気の彼でも寝ているときは意外と無防備なんだな、と。サリナは静かに彼の頭をしばしの間撫でていた。
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不意に思いついたひとコマネタをこっそり公開しときます。