赤茶けた大地が広がる荒野の中に白い石と漆喰造りの建物が並ぶ。
ここはラヘル、というアルペナツ教国の首都、ラヘル。
「ねえねえ司祭様、またあのお歌を歌って」
数名の子供が一人の女性を取り囲む。女性はそれに嫌な顔を一つせず近くの木下に子供達と座る。
ワクワクするような目で見上げる子供達に囲まれ、彼女は静かに歌いはじめる。
風が鳥を空に誘い 私を旅へと駆り立てる
この海の向こうにあるという宝を探しなさいと
過ぎた日は戻らない それは世界の理
けれど彼の者の許しがあれば
過ぎた日は戻ると 泉水の国の狐は教えてくれた
だから私は旅に出るの
彼の者が落とした 紅玉の指輪を探しに
「不思議な子だな......」
子供達の輪から少し離れた場所。
二人の男女がその様子を見、話をしている。
「言葉は全く喋れないのにあの歌だけは歌えるなんて」
「医者が言うにはあの歌以外のものをすべて忘れているんじゃないか、といっていました」
二人は今眺めている女性と同じ白い法衣を纏っている。
女神フレイヤに仕える者の証。
「それに魂も抜け落ちているようだ、とも」
「あんな生き生きとしたアンデッドがいるとは考えづらい。医者の行き過ぎた比喩だろう?」
「そうね、そうなのかも知れません」
「君はいつまであの子を傍においておくつもりなんだ?」
「そうね......、あの子にお迎えが来る日まで、かしら」
「人のいいことだ。彼女は紛れもなくルーンミッドガッツの人間だろう?君の行動をよく思わない者もいる」
「でも、フレイヤ様のご慈悲は何人に対しても隔たりはありませんでしょう?」
女性はにっこりとした笑顔を全く崩すことなく答える。
その表情に男性の方はやや苦笑して
「全く持って君は頑固だな」
と肩をすくめる。
「それに、なぜか不思議な予感がするんですよね......」
「予感?」
「ええ、あの子のお迎えが必ず来る、という予感が」
「......君の先読みにはいつも驚かされるが......、わかったよ俺も乗りかかった船だ。付き合うさ」
女性はその言葉にニコリ、と微笑んだ。